第4話 スクリュードライバーってもはやカクテルの域を超えた言葉だよね
《こちらが食堂でございます!!》
「すげー……」
一旦ログアウトすることを告げた深丸が花原葉月に誘われ、通された場所は青葉志成学園の食堂であった。
一目見ただけで豪華絢爛だとわかる造り。
円卓から普通の長机までおおよそ400人は超える人数を収容できる大きさ。
床は絨毯が敷き詰められ踏み心地はいいものだ。
自動販売機のようなものからカウンターまで必要なものは大方揃っている印象を受ける。
そして、天井にはシャンデリアのようなものまでぶら下がっていた。
「たかだか数十人のバーチャル学園にここまでかけるかね?」
《『たかだか……』ですからよ。バーチャルには制限(リミット)がありませんので》
そう言って葉月はにこりと笑う。
「んで、今日は自由に食べていいんだっけか?」
《はい。本日はお試しというわけですから。普段は月額制かもしくはアクティブポイントを消費しないと使えませんが、まずは内情を知っていただかないと。この食堂を数多くの生徒に使っていただくよう広報するのも私の仕事でございますので》
「ほんと、あんた抜け目ないよ。トップセールスマンになれる」
《それは褒め言葉として頂戴致しますわ》
まずは部屋の中央部に向かって深丸は歩いていく。
「この自販機、飲み物だけじゃなく食べ物まで売ってんだな」
焼きそばや焼きおにぎり、スパゲティにラーメンといったものまで自動販売機で帰る様子だった。
《はい。やはり急いでいる人も中にはいると思いますのでこのように即席のものも作っております》
「なるほど。この200APってのが、さっき言ってたアクティブポイントってわけか」
《さすが、ご理解が早いですね》
「現金は使えないの?」
《このバーチャル学園でのキャッシュの使用は基本的にございません。例えば、食堂を例に用いますとあらかじめ月や年単位のフリーパス券をご購入するか、APを貯めるかのどちらかですよ》
「なーるほど。APってのがこの学園では鍵になるんだな」
《APが全てというわけではないですが、やはり大いに越したことはないでしょう》
そして、深丸は自動販売機を尻目にカウンターへと向かう。「んで、こっちが本丸ってわけか」
《はい。メニューの数と種類は多いと自負しておりますので、きっと深丸くんの好みのメニューもあると思いますよ!!》
「へぇ、この中からなんでも頼んでいいってわけ?」
葉月は満面の笑みで「はいっ」と答えた。
「つってもなー、これだけメニュー多いと何頼んでいいやら……」
宙に浮かぶホログラムディスプレイを指でなぞりながら深丸はメニュー選びに勤しむ。
「……おっ、これにすっか」
深丸は『麻婆麺』と書かれたメニューをタッチし、葉月に頼んだ。
《了解しました。》
葉月は何やら操作をし出すと、これまたヴァーチャルらしきウェイトレスに話しかける。
深丸は近くの席に座り再びメニューをじっくり見ていた。
「にしても、ほんと数と種類多いな。……ってなんだこれ? 『猫鍋ラーメン?』」
とあるメニューのところで指を止める深丸。
「それはコラボ商品さ」
深丸の質問に答えたのは葉月ではなく、別の人物だった。
「今、原宿をはじめとして巷で有名なラーメン屋”猫鍋”。そのメニューをこの学校でも再現しているのさ。知らないかい?」
鼈甲のメガネとオールバックに金色の髪の男の姿を見て深丸は変な髪の変な野郎だと思った。
「あいにく俺はインドア派なもんでね」
あけすけに言い放つ深丸。
「確かにバーチャル制のこの学校に来るものはそういう人が多いけど、世の中を知ることは大事だよ。僕たちが生きるのは結局リアルな世界なのだから」
金髪の男は髪をさらっと後ろに流し言う。
「ええっと……」
深丸が困惑していると、
「ああ、すまない。僕の名前は瀬戸晴信だ。訳あって君たちより早くこの学園にいるけど、実質君たちと同期だ。タメ語でいいよ」
と、深丸に握手を求める。
「御宿深丸。よろしく」
深丸は握手に答えたが、内心、「こいつとはあんまり深く関わらないようにしよう」と決意していた。
(あからさまに俺、主人公やっています感が出てるわ。ロードオブメジャーとか聞いてそうだわ。まぁ、俺の人生には登場しないでいい人物だ)
そんなことを深丸が思っていると注文した麻婆麺を持って葉月が現れる。
《深丸くんお待たせしました……って、あれ? 晴信くん?》
葉月も瀬戸の様子に気づいたようだった。
「やぁ、葉月さん。今日もとりもなおさずビューティーだね」
《そんなことはどうでもいいです。ところで晴信くんは今、課題中じゃなかったですか?》
瀬戸は首を横にブルブル振り、
「あんなことやっていられるわけないじゃないですか。せっかく、こうして新入生もたくさん集まってきているのだし」
「やっていられるわけないことないだろ」
これまた違う男の声がする。
「やべっ!」
急いで逃げようとする瀬戸の服をその男は掴み取る。
「お前、いい加減にしろよ。毎度毎度必修科目サボりやがって」
「勘弁してよ。天気もいいんだし。今日くらい見過ごしてくれ〜」
「それも毎度の言い訳だな」
二人のやりとりを見ながら、深丸はやれやれと呆れていた。
早くご飯を食べて近所の新宿御苑を歩きたい。
そんなことを思い二人をよそ目に深丸が食べ始めた時だった。
《ほぅら言ったじゃない晴信くん。じゃあ、よろしく頼みます。藤枝道慈先生》