アバターくん、ちょっと学校行ってきて

私立高校・『青葉志成バーチャル学園』では、直接学校に通わず、自分のアバターを使って授業や部活に参加する完全オンライン制の学園生活が営まれている。 試験や部活、普段の学園生活における貢献度によって”スクールポイント”を獲得でき、ポイントは大学の推薦や、普段の学園生活、学期終わりのイベントやその他特典などに利用可能だ。合理主義者の主人公、御宿深丸(みしゅくふかまる)はオンライン制を利用し、様々な遊びを試みるのであったが……。

第3話 アバター作り!

「青葉志成バーチャル学園 藤枝……道慈?」

「だれー? にいちゃんのしってるひと?」

 勝手に触ろうとする幸太郎からひょい、と電子パッドを取り上げると、深丸は幸太郎を寝室に追いやった。

「知らない人だ、知らない人。俺くらいになるとよその秘密結社からの勧誘が引くほど来るんだ。じゃーおやすみな」

 深丸は自分のベッドに横になると、電子パッドの電源を切ってため息をついた。

「先生からの連絡なんて、ろくなことがあったためしがねーや。めんどくせ、明日でいっか」

 そうやって後回しにして、ろくなことがあったためしがねーのを都合よく忘れている深丸であった。

 さて、翌朝。

 姉と弟がそれぞれ高校と保育園に向かったのち、一人家に残った深丸は藤枝からのメッセージを開封して拍子抜けした。

「自分のアバターを作れ、だとぉ?」

 言われてみれば、一週間ほどまえに郵送されてきた入学ガイダンスなる配布物に、いろいろと書いてあった気がする。

 青葉志成バーチャル学園では、自分は家にいながら、自分の「アバター」が授業に参加する。そのほか、教員や学生たちとのコミュニケーションを図る際の「表の顔」としての役割を果たすのだ。

 深丸がいつまで経ってもアバターを作らないので、担任教員から督促が来た、というわけだ。

「んで、アバターができたらVCR(バーチャルチャットルーム)で挨拶のメッセージを同級生に送ってみよう、だってさ。……だってさ、って誰に向かって言ってんだ俺」

 ブツブツ独り言をこぼしていないとやりきれない面倒くささが今、深丸の心にのしかかっていた。

 しかし、アバターなしでは今後の学生生活を送れないに等しい。気持ちを切り替えて、青葉志成バーチャル学園のホームページからIDとパスワードを入力。「メインルーム」というタグをクリックした。

 突如、画面の真ん中に”Welcome!”という文字が飛び出してはじけたかと思うと、軽快なBGMとともにCGの女性が現れて、深丸に手を振ってきた。

《はじめまして! 私の名前は花原葉月(はなはら・はづき)! あなたの新入生生活をサポートするバーチャルチューターです! 私は普段ここ、『メインルーム』にいます! 困ったことがあったら何でも私に聞いて聞いて!》

「うぉっ!? びっくりした……」

 深丸は、スーツ姿で小脇に教科書のようなものを抱えている花原葉月をじっと見た。

「教科書のイラスト然り、最近のこーゆーのはエライ可愛いなぁ。こんな可愛いチューターさんにあれやこれや教えてもらえんの? そらもう困ったことっつったらあなたのせいで股間が元気になっちゃって……なんてな」

《こらこら深丸くん! 出会って数秒の女性に下ネタは失礼でしょ? 言っておきますけど、私はあなたの学生生活や勉強以外のことはサポートしませんよ!》

「えええ!? こっちの会話筒抜け?」

《深丸くんの質問や相談にリアルタイムかつ正確に回答できるよう、私には高度な音声認識システムが搭載されています! ちなみに、深丸くんとの会話履歴は保存されます! 会話を重ねることによって深丸くんの性格や思考パターンを学習し、より精度の高い会話を楽しめるようになるはずです!》

「ったく、このAIにいったい金かけてんだよ……」

《お金の話ですか? お金の話は私も大好きです! でも今は目の前の学生生活に集中しましょうね!》

「わかってるよ、いちいち反応しなくていいから。えーっと、俺まだ自分のアバターを作ってないんだけど、どうやって作るんだ?」

《それでは、この『アバタールーム』をタップして入ってみてください!》

 言われるとおりにすると、突如パンツ一丁の男性CGが画面中央に表示される。

《これがアバターの初期モデルです! 自由に身体のパーツや衣装をカスタマイズして、あなただけのアバターを作ってみましょう!》

 まるでオンラインゲームのようなノリだな。深丸は感心と呆れの交じったため息をついた。

《そうそう、深丸くんには注意しておかないとですね! あくまで学生生活を送るためのアバターということを忘れずに! 公序良俗に反するような恰好はできないように設計されていますからね!》

「わかってるって! くそっ、完全にエロガキ扱いじゃん俺……」

 深丸はひとしきり、衣装ケースや体のパーツをクリックしてみた。

「へぇー、案外自由度高いんだな。髪の色はなんでもありだし、衣装も普通の私服以外に、コスプレチックなのがいっぱいある。ん? このロックがかかってる服は?」

《それは、学園生活で貯められる『アクティブマイル』というポイントを消費することで、アンロックできるレアコスチュームです! 深丸くんのアクティブマイルは現在ゼロですね! アクティブマイルについての説明は、またいずれしますね!》

「はは、ますますゲームじみてきたな」

《体のパーツは一度作成すると変更不可となりますが、衣装はいつでも変えられるので、気軽に選んでくださいね!》

「こりゃ悩むねぇ……」

 アニメのキャラクターのように、人並外れたイケメンや奇をてらった格好に扮するという選択肢もある。が、素直に自分の容姿に似せて作成してみることにした。

 いくら自分に似せたアバターを作ろうとも、そしてアバターは自分の分身としての役割を持っているとしても、それはどこまでいっても「自分ではない誰か」だ。そうなのだが、せめて「自分だと思える誰か」にとどめておきたかった。

 面倒くさがりのくせに妙な凝り性を発揮した深丸は、一時間半もかけて微調整に微調整を重ね、自分のアバターを作り上げた。

「うっし、できた! 予想以上に俺に似すぎて気持ち悪いな。ほっぺに傷跡でもつけとくか。」

 最後にアバターの左頬に小さな傷跡を付け足し、完成とした。

「ふー、つっかれたー」

《まだ終わりではありませんよ、深丸くん! 早速、いま作ったアバターで同級生に挨拶をしに行きましょう! 『アバタールーム』を出て『VCR(バーチャルチャットルーム)』に行きますよ!》

 深丸は再び言われるがままに電子パッドを操作。花原が話しかけてくる。

《現在のアクティブユーザーは二〇人ってとこでしょうか! さぁ、自己紹介ですよ! 会話設定は今、『全体発信』になっていますから、深丸くんの発言は全アバターに送信されます! そうそう、あくまでここは共に勉学や部活動に励む少年少女の集いです! くれぐれも下ネタを投下するようなことだけはしないでくださいね! 私にはVCRに入る権限がないので、メインルームでお留守番です! それじゃあいってらっしゃい!》

「どんだけ俺のこと偏見に満ちた目で見てんだよ? 割と真面目にやってんじゃん俺。どうやったら評価変わるんだよ」

 深丸はぶつくさ文句をたれながら、VCRの「入場」タブをタップ。広々とした部屋に入ると、たくさんのアバターたちがあちらこちらに輪を作り、語り合っていた。

 深丸はとりあえず、《初めまして、御宿深丸です。よろしくお願いします》と文字を入力した。

 すぐに目に見える反応があった。近くの輪を囲んでいた二人が、深丸のアバターに駆け寄ってきたのだ。

「うぉぉ、なんか眼鏡委員長っぽい女子来た! あともう一人男子が……なんか竹野内豊っぽい! 竹野内豊っぽいダンディズムを放ってるよ! 高校生には到底見えねーけど!」

 眼鏡委員長っぽい女子アバターが口を開いた。

《こんにちは、御宿くん! 私は五十嵐織音(いがらし・おりね)。今日から私たち友達だねっ! 御宿くんはフェイスブックやってる? やってたらあとで友達申請してもいいかな?》

 会話の展開が早いな。フェイスブックは、アカウントは作ったもののほとんど利用していないし、苦手意識のあるツールではあった。しかし、ここで相手の誘いを無下に断るのも気が引ける。

《一応やってます。申請してくれたら、承認しときますよ》

《ありがとう! すごいよ御宿くん、ちょうど私の二千人目の友達だよ! そうだ、いまあっちで運動部の先輩たちが簡単な部活説明会やってくれてるんだ。このルームって本来一年生用なんだけど、事前に先輩とコンタクト取りたいって私が藤枝先生に申請したら、オーケーしてくれたんだ。どう? 御宿くんも聞いてみない?》

 怒涛の情報量に深丸がたじろいでいると、隣の竹野内豊風男子が助け舟を出してくれた。

《そんなに追い詰めるような真似をしちゃ迷惑だろ、織音。君には君の、彼には彼のペースがある。相手に提案を投げかけるときは、相手が断りやすい雰囲気を作ることも大事なんじゃないかな》

 豊氏、なんというイケメン。深丸の心情を掬い取るかのようなフォローが完璧だ。

 深丸は運動部には興味がなかったので、丁重に断りのメッセージを送信した。すぐに五十嵐からの返信が届く。

《そっかー、話だけでも聞いてくれてありがと! また何かあったら誘うね!》

 深丸は暇を告げて逃げるようにバーチャルチャットルームを後にした。

 再び、花原葉月が画面中央に現れる。

《お疲れ様です! ひとまず、入学前に行う最低限のことは達成できたようですね!》

「ああ」

 深丸は時計をちらりと見た。すでに、昼の二時を回っている。今更ながら腹の虫が鳴きだした。

「だいたい要領はつかめたよ」

(第3話おわり)