第2話 メンテナンスに入りたい
「やりたいこと……か」
深丸は自分のベッド仰向けになり、天井をぼんやり見つめている。
「……やりたいことって言われてもなぁ」
15歳の深丸は思う。
俺には将来の夢だとか、志ってものがない、と。
今の生活で十分満足できているし、これ以上の幸せってものがあるわけないと頭で理解している。
この家での生活がそのまま続くことこそが俺の夢かな、と深丸は自嘲する。
事実、彼が巷で話題のバーチャルハイスクールに入学したのも家にいながら受講できることが大きな理由であった。
そんなことを言うと姉の十和莉に「あんたじじくさすぎるのよ」と罵られるのがオチだが、深丸自身はそんな浮世離れした自分の性格を気に入っている。
周りより大人だという優越感がそのまま彼の自尊心に直結していた。
もちろん昔は人並みの夢ってやつを持っていた。
「ヒーローになりたい!」
と目を輝かせて、戦隊モノやヒーローごっこをしていた時期もあったが、あれは大人が作り上げた幻想でどこにもそんなヒーローがいないことがわかると、彼は幻滅した。
ーー所詮人生なんてそんなもんか。
幼いながら深丸は悟りきった。
「それ以来かな。俺は。別にやりたいこともねーし。強いていうならタイムトラベルくらいか?」
独り言を呟く深丸。
タイムトラベルで時代の転換期を見てみたい。
そういった歴史の授業で学んできたことが嘘偽りないのか自分の目で確かめることは彼自身やってみたいとは思っていた。
「タイムトラベル……俺の頭じゃ無理だわ」
そうふてくされてゴロンと姿勢を変えた時に、トントンと部屋の戸がノックされ、「どうぞ」と深丸は言った。
「兄ちゃんふてくされてるんじゃないだろうね」
声の主は幸太郎であった。
「んだよ、ってかなんでわかったんだよ」
幸太郎は自慢気にふふっと笑う。
「だってねー。兄ちゃんが黙って自分の部屋に籠るのはそういう時だもん。フカマルからコモルーになるんだよね」
「いつの時代の育成ゲームの話をしているんだ。お前は」
幸太郎は腰に手を当てて再び自慢気にする。
そんな弟の様子に深丸は、
「もうお前は立派な調査隊員だよ」
「そう!? やった! ヘヘッ」
歯をむき出しにして喜ぶ幸太郎を見てやはり自分がバーチャールハイスクールに入ったことは間違いではないと思った。
その時だった。
テンロンテンロウ♪
深丸のお気に入りの電子パッドにメッセージの到着音が鳴る。
「あれれ、誰から?」
幸太郎が首を傾げる。
「本当にな。誰だろうか? こんな夜遅い時間に。チェーンメールとか出会い系サイトとかの迷惑メールか?」
「出会い系?」と幸太郎がはてなマークを浮かべているのをよそに深丸はメッセージ内容を確認する。
「これは……」
幸太郎も見せて見せてーとパッドを覗き込んでくる。
「青葉志成バーチャル学園 藤枝……道慈(どうじ)?」
春から入学することになっている学校の先生らしき人物からのメッセージであった。