ジャンプ型小説・ブログ集

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ロストテクノロジーは誰のためにあるの 〜東都動乱篇〜 第3章 月は無慈悲な砂の女王 Part1

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☆そして物語は第3章に入る。それぞれの思惑が交差し一同は白塔へと集う。

 

 不気味な男の手が伸びてきて、危うく捕らえられそうになる。

 足が動かない。金縛りにあったかのようだ。逃げなきゃ。頭では分かっているのに……。男が何か言う。男の手は目の前で止まり、スッと引っ込んだ――

「……志乃! 志乃!」

 自分を呼ぶ声に意識を揺さぶられて、志乃は目を覚ました。

「白塔、着いたけど大丈夫? なんか、苦しそうだったけど……」

 冷花が心配そうな顔つきで、自分の様子を窺っている。

 白塔に向かう車の中で、どうやら気がつかないうちに眠っていたらしい。

「ありがとう、冷花。もう大丈夫だよ。ちょっといやな夢を見ただけ」

 志乃は笑顔でそう言って、ワンボックスカーを降りる。まだ夢の映像が頭に残っていて、気分が悪かった。

 首筋や下着にいやな汗がにじんでいる。ひんやりした外気に、志乃は身震いした。

 先週、決まったとおり、志乃たちは白神所長の運転する車で白塔にやって来た。高くそびえ立った白塔の外壁には傷一つ見当たらず、滑らかな光沢を放って志乃たちを見下ろしている。

 一行は、正面の入り口から白塔の内部へと進入した。内部にはところどころに灯りがあるものの、薄暗くて不気味だ。白神所長がひそひそと囁く。

「いいかい、みんな、僕から決して離れないように。それから、それぞれ周囲に気をつけながら歩くこと。いいね?」

 皆、神妙な顔つきで黙って頷いた。今回の探索は、楽しいピクニック気分というわけにはいきそうになかった。

 覚悟を決めて白塔の中へ入った志乃だったが、若干の眩暈と耳鳴りがして気分が悪い。しかも、その度合いは弱まったかと思えば強くなるなど、まるで電波を受信し損ねているラジオのようだった。

「通路が何本にも枝分かれしているようね」

 冷花の発言に、りっくんが頷く。

「ああ。このままでは迷子は確実だな。ということで、」

 りっくんはリュックサックからポテチの袋を取り出した。

「通った道にポテチのかけらを置いていこう。古典的な方法だが、地図もない以上、これがベストだろう」

 一行は何度も角を曲がり、どこまで行っても変わりばえのしない通路をひたすら進んだ。ヤスが、「つーか、どこまで続いてんの」と言ったあたりで、志乃は妙だと思った。

 ――なんだろう、この嫌な感じ……。白塔全体がざわめいているような……。

 そのときだった。

「あっれー、あなたたちだれですかー? 紅叉のメンバーでもないですねー?」

 この不気味な塔に似つかわしくない、のほほんとした声が響き渡った。

 声のするほうを見ると、板金鎧(プレート・アーマー)をあしらったワンピース姿の女性がにこにこと微笑んでこちらを見つめている。まだ幼い少女のようにあどけない笑顔には、思わずつられて笑いかけそうになる魅力があった。

「もしかしてあなたたちもー、探検しに来たんですかー?」

「そうなんスよ~。いまんとこ歩いてばっかで収穫ゼロでー」

 と気さくに答えるヤスを、白神所長が遮った。

「見かけに騙されるんじゃないよ、ヤスくん。こんなナリだが、彼女は月砂のメンバーの一人、和泉木葉(いずみこのは)くんだ」

「月砂!?」

 一同の身が固くなる。和泉木葉はうふふっと笑い声を漏らす。

「そーゆーあなたは、『七色の複合術師(トリックミキサー)』、白神さんじゃないですかー。まさかこんなところで会えるなんてうれしいですー。ねーねー、どーして月砂に勧誘されたとき断っちゃったんですかー? リーダーはあなたのこと、すっごく気に入ってたみたいですよー?」

「悪いけど、そんな昔話に付き合ってるヒマはないんだよね」

 白神所長は上着のポケットから土くれを取り出すと、床に放って軽く蹴った。すると、土くれはむくむくと肥大し、壁になって和泉と白神所長たちとを隔てた。

「入口に戻ろう! 今日のところは引き上げるよ!」

 白神所長の一声で一同が走り出したそのとき、背後でピシッという音が聞こえた。みんなが振り返った瞬間、壁は粉々に吹き飛んだ。和泉は鎖鎌を振り回しながら、笑顔のまま距離をつめてくる。

「やっぱり白神さんの霊気力は使い勝手がいいですねー。でも、この程度で私を足止めできると思ったんですかー? あんまりなめてると殺しますよー?」

 たん、と床を蹴って和泉が前方に飛び、白神所長の胸部をめがけて鎖鎌を振り下ろす。しかし、冷花のほうが僅かに早かった。冷花は目にもとまらぬ速さで呪印を結ぶと、白神所長を結界で包み込んで鎌を弾き飛ばしたのだ。

「あっれー? そちらのお嬢さんも面白い技を持ってますねー。じゃあ、お嬢さんから殺してあげまーす」

「ここは私たちで食い止める! みんな、逃げて!」

 冷花は志乃たちに向かってそう叫ぶ。

「でも……」と志乃はちらりとコウの顔を窺った。

 コウも志乃を見返してくる。白神所長が声を張り上げた。

「これは所長命令だ。ここは我々に任せて入口へ逃げなさい!」

 四人は顔を見合わせ、力強く頷いた。

「所長、冷花、早く追いついてこいよ!」

 ヤスがそう声をかけ,四人は走り出す。

 いまや、志乃の頭は割れるような痛みを訴えていた。

 時どき、視界がかすむ。

 ――だめ、しっかりしなきゃ……。ここで倒れるわけにはいかない……。

 走りながら、りっくんが愕然とした声を上げた。

「どうなってるんだ!? 床に置いたポテチがぜんぶなくなってる。まさか志乃……。お前、腹が減りすぎて食べてしまったのか?」

「んなわけねーだろ!」

 ヤスが怒鳴る。

「月砂の連中が回収したんじゃねぇのか? 何の目的があんのか知らねぇが、俺たちをここに閉じ込めるためによ」

「そんな手間のかかることより、もっとマシな作戦を思いつきそうなものだが……」

「じゃあ何だってんだよ!?」

 一同は仕方なく、来た道を必死で思い返しながら走っていく。一分ちょっと走っただろうか。ある角を曲がりしなに、志乃はごつごつした巨大なものにぶつかって、尻餅をついた。

「あいてっ!」

志乃の頭上から、どんより沈んだ声が降ってくる。

「あのぅ……。このへんで、ワンピース姿の小さい女の人、見はりませんでした?」

 志乃はおそるおそる顔を上げた。巨大なものの正体は、ゆうに二メートルを超す長身の女性だった。筋肉質で大柄な肉体。和服にゴスロリ衣装を組み合わせた服。そして、小脇に抱えた童女の日本人形。すべてが気味の悪いほどちぐはぐだ。

「その人なら、さっき向こうで見たッス……」

 ヤスがおっかなびっくり答えると、巨大な女性は物憂げな表情で「そう、おおきに」と呟いて、立ち去りかけた。しかし、はたと足を止め、くるりと志乃たちを振り返る。

「っていうか、あんさんら。計画の邪魔やから、ここで消えてもらいます」

 

☆霊気力者は霊気力者を呼ぶ! 巨大な女性は「月砂」の一員か? それとも……。