ジャンプ型小説・ブログ集

週刊少年ジャンプみたく3人の著者が小説やブログを更新していきます。

ロストテクノロジーは誰のために 〜東都動乱篇〜 第2章 誰がために東都はある Part5

☆ 紅叉と月砂の小競り合いから一夜明けた、白神考古科学研究所。東都の隅にひっそりと佇むこの研究所も、世の不穏な動きに反応せざるを得なかった。

 

 白神所長は朝刊を読み終えると、日当たりの良い窓際で至福の二度寝タイムに突入寸前の、虚西コウをつっついた。

「コウ、君も少しは新聞でも読んで世の中のことを勉強しなきゃダメじゃないか」

「紅叉と月砂の一件っしょ? それならネットニュースでとっくに知ってますよ。あの事件のせいで、昨晩のネット上がどれだけ荒れたと思ってんですか」

 虚西コウは、白神所長が差し出した朝刊には目もくれず、大きな欠伸を一発かました。白神所長は、分かってないねぇ、とつぶやいた。

「資料として日々、蓄積されていくものを読み続けることがどれだけ大切かってことを、今の若い人は知らないんだよねぇ」

「へいへい、年寄りのお節介は聞き飽きましたよ」

 再び眠りの体勢に入ろうとするコウを、白神所長は改まって真剣な口調で呼んだ。

「紅叉にしろ月砂にしろ、目的はオーパーツの入手だっていうのは君も知ってるよね。僕らの研究所も、いずれオーパーツのありかを突き止めたいと思っているけど、それまで君は……」

「目立つ行動は禁物、ってんでしょ。それももう腐るほど聞いたから分かってるって。それより、所長、綾崎の指導しなくていいんすか。あいつの霊気力、まあ、けっこういい線いってるんじゃないっすか」

「それは僕も同意だよ。ただ、今回の指導はあの子らに任せてみようと思ってね。新しい後輩ができて、やる気みたいだからさ」

 白神所長は立ち上がると、庭で霊気力の「特訓」を志乃に教授するヤス、りっくん、冷花を窓から眺めながら考えた。

 ――コウ、君こそちゃんと分かっているのかな。君がどれほどこの時代にとって危うい存在かってことを……。

 

「しょぢょ~。聞いてぐだざいよ~」

昼食の席についた志乃はぐったりとテーブルに突っ伏して、キッチンから肉料理を運んでくる白神所長に愚痴をこぼした。

「霊気力むずかしすぎですよー。もうぜんっぜんうまくいかないんですけど」

 志乃が話すところによると、木や土、林の向こう側の滝、岩山などをめぐって精神を集中させてみたが、何一つ成果が上がらなかったそうだ。

「最初はそんなもんなんじゃねーの」

 と、つぶやきながら、キッチンからピンク色のエプロン姿で現れたコウを見て、志乃と冷花は爆笑した。

「コウくんがエプロンしてるー! 超可愛いんですけどー!」

「何であえてのピンクチョイスなのかしら? もしかしてボケてるの? 突っ込んであげたほうがいいの?」

「っせーな腹黒冷花、アホ崎志乃。余ってるエプロンこれだけなんだよ。悪ぃかよ」

 笑い転げている志乃の目の前にスープをドン、と置きながら、コウは文句をたれた。

「つーか、お前が落ち込んでるからわざわざフォローしてやったってのに、真面目に話す気あんのか、コラ」

「あ、そーだった、そーだった」

 志乃は困った表情で白神所長に話を振った。

「所長はどうやって霊気力をマスターしたんですか? 何かコツとかありました?」

「うーん、何だろうねぇ。霊気力ってのは潜在的な力だから、それをぐいっと引き出してくれるきっかけがあるといいんだけど……」

「そんならよ、白塔行くのとかどうよ?」

 ヤスが提案した。

 そうか、とりっくんが頷く。

「白塔には強い霊気力が秘められていると聞く。あそこに行けば、志乃にとっていい刺激になるかもしれないということか」

「そゆこと」ヤスが頷き返した。

「でもねぇ」白神所長は首肯を渋った。

「白塔の中はほぼ未知数なんだよ。そんな危ないところに君たちを連れて行くわけにはいかないよ」

「とか言ってぇ」冷花が所長の肩をつついた。

「ホントは一番行きたいの所長のくせに。お酒が入るたびに叫んでるじゃないですか。白塔探検は研究者のロマンだ、とかなんとか」

 白神所長は「記憶にございませんなぁ」としらばっくれたが、所員たちから浴びせられる視線の圧力に負け、しぶしぶ首を縦に振った。

「じゃあ、ちょっとだけ覗いてみるってことで。来週、仕事が休みの日に出かけてみようか。ただし、危険だと僕が判断した時点で探索は中止だからね」

 歓声を上げて手を叩きあうヤス、りっくん、冷花。片やめんどくせ、と呟いてスープを飲み干すコウの横で、志乃はどこかうかない顔でうつむいていた。

 

「白塔だと?」

 薄暗い部屋の中。垂れ幕の向こう側から、凛とした女の声が尋ね返す。

「本当にオーパーツはあの塔にあるというのか、練馬?」

「はい」

 月砂の幹部の一人、練馬京王(ねりまみかど)はひざまずいて女に答えた。

「紅叉に潜らせた間者の情報ですと、紅叉はオーパーツの確保に向けて、来週中には白塔に潜入するとのことですぞ」

「近頃、紅叉も学連警備団も好き勝手ばかりやりおって。しかも、よりによってあの迷宮地獄と噂高い白塔とは、難儀なことよ」

「して、どうされます?」

 練馬京王の問いに、女は毅然とした口調で言った。

「知れたことよ。連中をこれ以上、のさばらせておくわけにはいかぬ。今回は私自ら陣頭指揮を執り、正義の名のもとに奴らに天誅を下してやる」

「さすがはレイシア様、勇敢なお言葉に頭が下がります、ほほっ。しかし昨日の事件で幹部が学連警備団に捕らわれたいま乗り込むのは少々、危険なのでは……?」

「それは紅叉とて同じこと。それとも、この私が紅叉などという烏合の衆に遅れを取るとでも言いたいのか、貴様?」

「い、いえ。滅相もありませんぞ、ほほっ」

 練馬京王は急いで詫びた。女は構わず話を続ける。

「練馬、この件は貴様から相模にも話しておけ。それから、紅叉が白塔に乗り込む日取りもつかんでおけ」

「承知いたしました。ところで――」

「そうだ、相模は。あの男は今どこで何をやっておる?」

「ええ、その件なのですが、また行き先もお告げにならずに出かけてしまわれて……。困ったお方です」

 練馬がおずおずと切り出すと、幕の向こうから大きなため息が聞こえた。

「まったく、我がまま放題の忠犬にも困ったものだ。三時間後、白塔行きに関して緊急会議を開く。それまでに連れ戻して来い」

 女は立ち上がってひとりごちる。

虺竜文(きりゅうもん)……。貴様が東都で暴虐の限りを尽くしていられるのも、あと少しの間だけだ。そう、オーパーツさえ手に入れれば……」

 

☆続いて三章へと移っていきたいと思います。