ジャンプ型小説・ブログ集

週刊少年ジャンプみたく3人の著者が小説やブログを更新していきます。

ロストテクノロジーは誰のためにあるの 〜東都動乱篇〜 第2章 誰がために東都はある Part2

 

☆この回では前回、会話の中で登場した「紅叉(アカシア)」と「月砂(レゴリス)」の幹部クラスの戦いです。東都研究都市における二大武装勢力の幹部対決!! いきなり飛ばしていきます。

 

 東都第三地区。ここには大から小まで様々な商業施設が密集しており、東都の中で随一、人の往来が盛んな場所だ。その中心には建物に取り囲まれるようにして大広場があり、真ん中にそびえる女神像をあしらった銀色の噴水前のベンチは、恋人や家族の憩いの場として名高い。

 

 それがどうしたことか、今日は噴水を遠巻きにして人だかりができていて、人々は不安げに目配せをし、物々しく囁き合っている。

「おいおい、あのベンチに座ってるの、紅叉アカシアの連中だよな?」

「いやだわ、一ヶ月前、第五地区で騒ぎを起したばかりだって言うのに、また何かやらかすつもりかしら?」

「大丈夫さ。見てみろ、月砂レゴリスのお二人のご到着だ。月砂レゴリスがいてくれれば、紅叉アカシアに好き勝手やらせないさ」

「どうだかのぅ。秩序と正義を謳う月砂レゴリスとて、思想は違えどやっとることは紅叉アカシアに似たり寄ったりに思えるがのぅ……」

 ベンチに腰掛けているのは、東都の中でもとりわけ先進的な技術力をほこる樋口研究所の過激派武装組織「紅叉アカシア」の構成員である、壇長吉とチョウ・ヤンだ。

「長吉のアニキ、月砂レゴリスのやつらが来るぜ」

 チョウ・ヤンは、地面まで届かない短い脚をぷらぷらと振りながら、壇に知らせた。その口振りは、今から起こるであろう一触即発の事態を楽しみに待ち受けるかのようだった。

「そのようじゃあないの」

 真紅の長着に身を包んだ壇長吉は、団子の串をくわえた口を歪めてほくそ笑んだ。

「それに、あいつらは第五地区で俺たちを邪魔した宇都宮寿と千賀峰咲じゃあないの。さてさて、お手並み拝見と行くかね」

 紅叉アカシアと対立する、丹羽研究所の武装組織月砂レゴリスの宇都宮寿は、数メートル先の壇長吉がにやりと笑みを浮かべたのに気がついた。

「あ~、あいつめっちゃヤル気じゃん。どうしよ、やりたくないわ~。先週、ついに念願の槍『御手杵おてきね』を手に入れたばかりだってのに。もし、あいつとやり合って槍が折れたらどうしよう。もし槍が折れて、その切っ先があろうことか俺の目に突き刺さって失明したらどうしよう」

 宇都宮は鳶色の髪の毛をくしゃくしゃと鷲掴みにする。

「苦労して手に入れてたのに、ご愁傷様。でも、紅叉アカシアの連中に容赦はできない。手加減もできない。向こうがやる気なら、こっちもやるしかないよ」

 千賀峰咲は、腰回りに括りつけた十個以上もの小瓶を、グローブを嵌めた手でぽんぽんと叩いて紅叉アカシアの二人をにらみ付けた。

「わかってるよ。連中のやり方はこの帝都を破壊に導くだけ。俺ら月砂レゴリスが無理やりにでも止めなきゃね」

 千賀峰の決断に宇都宮寿は頷き、

「……よう、紅叉アカシアの小団長、壇長吉。お前、こんなところで何してる?」

 と、壇長吉にけしかけた。

 それを聞いた壇は鼻でせせら笑う。

「ずいぶんなご挨拶じゃあないの。広場でのんびり休憩してるのが、そんなに悪いことかね?」

「しらばっくれても無駄だ。こっちはやり手の情報屋から、お前らが不穏な動きを見せてるって情報を聞いてここに来たんだ」

 ここで、壇の脇からチョウ・ヤンがキンキンと声を張り上げる。

「おい! おいらを無視して話すすめてんじゃねーぞ! 背が小さいからって無視すんなよ! 背が小さいことがそんなに悪いことか!?」

「子供は黙ってなさい」

 千賀峰咲が一喝し、壇に向き直る。

「あんたらが最近、オーパーツ探しにますます躍起になってるのは知ってる。それはあんたらの勝手だけど、その探し方があたしは気に食わない。こないだの第五地区での一件だって、月砂レゴリスが駆けつけなきゃ一般人に死人が出るところだった」

「正義の使者気取りも大概にするこった。月砂レゴリスだって必死こいてオーパーツを手に入れようとしてるじゃあないの。俺たちとお前たちは所詮、同じ穴のムジナ……!」

 壇長吉は顔を思い切り反らせた。彼の鼻面めがけて、宇都宮寿の槍が振り下ろされたのだ。団子の串が壇の口を離れてベンチに転がり落ちると同時に、キン、と金属同士がぶつかり合う高い音が響き渡る。すんでのところで、チョウ・ヤンのコンバットナイフが槍の穂を食い止めたのだ。

「うっわ最悪。一発で刺さってくれよ」

 やれやれと宇都宮。

「アニキを不意打ちで殺ろうとしやがって……。貴様、肉片も残らんくらいに切り刻んでやろうか」

 チョウ・ヤンは、先ほどのキンキン声とは打って変わった低い、唸るような声で言った。

「俺たち月砂レゴリスを侮辱するようなことを言うからだ。月砂レゴリスは、世界の安定と秩序のためにオーパーツを保持したいと思っている。何でもぶち壊そうとする、ガキのようなやり口しか知らないお前たちとは、目指すビジョンが全く違う」

「ごたくはどうでもいいんだよ……」

 チョウ・ヤンは目にもとまらぬ速さで、愛用するコンバットナイフS18-SHUKIⅢの刃を宇都宮に向って繰り出した。宇都宮はなんとか穂先をナイフの刃にかち当て、切っ先を上方にそらす。続けて宇都宮は柄を大きくスイングさせたが、チョウ・ヤンはひらりと宙返りしてそれをかわした。宇都宮はジャンプして一旦、後ろに下がる。

間合いを詰められたらこっちの不利だ。宇都宮は槍を構えなおす。

およそ百年前の戦争で焼け出され、修復不可能と言われた名槍・御手杵おてきねをついに宇都宮は考古科学の修復技術によって蘇らせた。彼にとってこの戦いは、その性能を試すのにもってこいといえる。

「やっぱり、戦うしかないか」

 噴水前から逃げていく野次馬たちを横目で追いながら、千賀峰は腰につけた小瓶の一つを開封した。壇はベンチから腰を浮かせると、チョウ・ヤンに警告を発する。

「チビ助、気をつけろ。噂によると、奴は妙ちくりんな植物の使い手というじゃあないの。どんな攻撃でくるかわかったもんじゃあ……?」

 小瓶から窮屈そうにもぞもぞと出てきたのは、西部劇でよく見かける、固焼きソバのように細い葉が絡み合った、丸っこい茶色の草の塊だった。それは地面にぼてっとみじめな落ち方をすると、微風に煽られて壇とチョウ・ヤンのほうへ転がっていき、そして……転がり続けて噴水の向こう側に姿を消した。

 壇はベンチの背に腕を回して哄笑した。

「やってくれるじゃあないの! 俺たちの戦闘を、西部劇ふうに演出してくれたってわけだ。こいつぁ傑作だ!」

 つづいて壇が手を上空に掲げると、ピシッという音が彼の背後で鳴った。噴水の女神像の首にヒビが入り、頭部が切り離されて宙に浮いた。

クリント・イーストウッドの早撃ちってわけにはいかねぇが、俺もチビ助も、速攻を得意とする身でねぇ。その威力、とくと味わってもらおうじゃあないの!」

 壇が手を前に突き出すと、女神の頭部が弾丸のように千賀峰めがけて飛んでいき、腹のあたりで爆発した。千賀峰は十メートルほど後方にふっとばされ、地面に叩きつけられた。

「咲! 大丈夫か!?」

 宇都宮が駆け寄って助け起す。千賀峰は大きく咳き込む。

「大丈夫。とっさに瓶から出したマザーリーフを、防弾チョッキ代わりにしたから」

 見ると、千賀峰の胸から腹にかけてを、細かい青葉がびっしりと覆っていた。千賀峰は立ち上がると、げっぷみたいに煙を吐き出している、よれよれになったマザーリーフを小瓶に詰め込み、宇都宮に囁いた。

「壇は霊気力を使って、空気中にガスを充満させたり、物体に含まれている空気を圧縮・膨張させたりして爆発させる能力に長けた男よ。ちょっと厄介な相手だから、ここは一気にカタをつけようと思う」

「咲、まさかあの植物を……?」

「そうよ。あいつを使うには、かなり集中して霊気力をコントロールしなければいけない。急に背後から襲われでもしたら、防ぎきれないと思う。あたしが壇を猛攻撃する間、寿はあたしのサポートをお願い。チョウ・ヤンをあたしに近づけないで」

「わかった。ちょっとだけ不安で心配で、息切れしそうなくらい胸の動悸が早まってるけど、その作戦でいこう。君は俺の槍が守る。もし咲が死にでもしたら、俺はやりきれないからね」

 千賀峰はにこっと微笑んで、黄色いバツ印のついた小瓶の蓋を親指で跳ね上げた。千賀峰は壇との間合いを詰めていく。ベンチに悠々と構える壇がからかうように口を開いた。

「あの爆発を受けてピンピンしてるとはね。プライド、ちょっと傷つけられたじゃあないの」

「あたしの植物の力をなめないでくれる? 攻撃、防御、回復……。あたしはそれぞれの植物の特性を見極め、実験に実験を重ねて、霊気力によって植物の秘められたパワーを最大限に引き出してる。馬鹿の一つ覚えみたいな爆発マニアさんとは、霊気力の格が違うんだから」

「馬鹿の一つ覚えかどうかは、これから分かるじゃあないの」

「あんたも、あたしの植物の恐ろしさがこれから分かるよ」

 千賀峰は蓋を開けた小瓶を軽く振った。すると、白い花を蛇の鎌首のようにもたげた背の高い植物が、するすると小瓶の中から滑り出てきた。青々とした鋸歯型の葉は、鮫の牙のように先鋭だ。

「おうおう、こりゃあまたおぞましいじゃあないの」

 ジャイアント・ホグウィード。触れるだけで皮膚を溶かすほどの猛毒を持った雑草兵器を、千賀峰はわざわざスコットランドから取り寄せて改良した。「あなたには、実験台になってもらうわ」

 ジャイアント・ホグウィードは小瓶から抜け出ると、壇に襲いかかった。壇は事も無げにそれを爆発させて、灰にした。

「くだらないじゃあないの。俺はお前さんのびっくり植物ショーに付き合ってるヒマはないんだがねぇ」

 しかし、次の瞬間、小瓶から五体ものジャイアント・ホグウィードがいっせいに飛び出して、壇に迫った。壇は間髪いれずに爆発で倒していく。だが、それで終りではなかった。千賀峰が小瓶を握る右手にさらに力を入れると、ざっと二十体以上ものジャイアント・ホグウィードが、競うようにして小瓶の中から這い出てきたのだ。

 壇は舌打ちをした。

 ――まずいんじゃあないの。このままじゃあ、植物が出てくるスピードが、俺の爆発のスピードを上回っちまう。それにしても、あの小瓶は底無しか? なんだって植物が、無尽蔵みたいにぽんぽん飛び出してきやがるんだ……。

 壇は襲ってくる獰猛なホグウィードを爆破しつつ考える。

 ――いや、これは千賀峰の霊気力によるものか? 小瓶の中に仕込んだ土の中に、生育しきった植物が飛び出す衝撃で落としていく種子を埋め込み、それが発芽してから花をつけるまでの過程を、霊気力で何百倍速にもはやめて瞬時に新たな植物を生み出してやがるんだ。最初は一体だけ。それが次には五体、さらにその次は二十数体。だいたい五乗の計算で植物が増殖していくってんなら、こりゃマジでまずいじゃあないの……。

「チビ助!」

 壇は叫んだ。

「背後だ! 背後に回りこんで千賀峰を始末しろ!」

「了解、アニキ!」

 チョウ・ヤンはジャイアント・ホグウィードを避けつつ、電光石火のごとく千賀峰に接近、コンバットナイフを振り上げた。だが、一陣の風に煽られ、後方へ吹き飛ばされた。

「いてぇ! この風、アニキの爆風じゃねぇっ……」

 ひりひりした痛みを感じた左腕を見ると、細長い裂傷から血がにじんでいた。

「これは、かまいたち!?」

チョウ・ヤンが顔を上げると、千賀峰と背中合わせに、宇都宮が仁王立ちで槍を構えていた。

 天下三名槍の一角、御手杵おてきね。宇都宮は槍の霊気力を引き出し、周囲の空気を操って人工的な風をつくり出した。

「文献によれば、同じ改良を施したかつての使い手は自在に風を操り、一振りで百の兵をなぎ倒したと言う。ならば、俺はいずれ、」

 宇都宮は怒鳴った。

「一振りで千の兵をなぎ倒す槍の名手になる」

 チョウ・ヤンはコンバットナイフを構え直しながら、くそっと悪態をついた。 

 宇都宮の風技の攻撃範囲はずいぶんと広く、チョウ・ヤンはかわしきることができない。

「そんなら……」

 宇都宮の攻撃と攻撃の合間の隙をついて狙う。チョウ・ヤンの素早さなら余裕であろう。

 宇都宮は考えていた。

 ――千の兵とか言っちゃったけど、やっぱりやりすぎだったかな……。せめて五百とかにしとけばよかった……。いま思い返すと、千とかあっさり言っちゃうあたり、小学生みたいとか思われてそうでいやだわ……。どうしよう……。

 はっと顔を上げると、チョウ・ヤンの姿が見えない。宇都宮が槍を構えなおした瞬間、宇都宮の左斜め上に飛び上がったチョウ・ヤンのナイフの刃が、宇都宮の首筋めがけて伸びて来る。

 ――速すぎる! 

 宇都宮は間一髪、槍の銅金から、細く回転する風の砲撃をチョウ・ヤンのどてっぱらに撃ちこんだ……はずだった。しかし、チョウ・ヤンの姿は僅かの差でかき消えていた。

 ――動きが読まれているだと? 

 そう思ったのも束の間、右下から凄まじい殺気を感じて宇都宮は振り向いた、その瞬間にチョウ・ヤンのS18-SHUKIⅢが、宇都宮の脇腹をえぐっていた。

「うっ……」

 槍をだらりと下げた宇都宮を尻目に、チョウ・ヤンはS18-SHUKIⅢを宇都宮の脇腹にめり込ませたまま、ベルトからコンバットナイフGTFO-Tを、左の逆手ですらりと抜き取った。そして、その勢いそのままに、千賀峰の背中へと刃を突き立てた――と思いきや、先ほど宇都宮が放った風の砲撃が空中で方向を変えてチョウ・ヤンの背中に肉薄し、クリーンヒットする。チョウ・ヤンは右手のナイフを抜きさる間もなくまたしても吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

「さっき、言っただろうが……」

 血があふれ出す脇腹を押さえながら、宇都宮が言った。

「風を自在に操ると。いま放った打突に特化した風も、最初に放った斬撃に特化した風も、俺は人工的に作り出すことができる」

 これを組み合わせた応用技は、現在開発中だけどな、と宇都宮は思ったが口には出さなかった。

「寿! あんた、大丈夫?」

 千賀峰が後ろを振り返りつつ叫んだ。宇都宮は頷く。

「咲は植物に集中していてくれ。俺なら心配ない……」

 宇都宮は槍を振るい、矢継ぎ早にチョウ・ヤンへ風の攻撃を叩き込む。

 チョウ・ヤンは急いで跳ね起きると、すんでのところでかわした。だが、チョウ・ヤンの左脚に鈍い痛みが走る。どうやら、打ち所が悪かったらしく、先ほどのような素早い動きは難しい。

 チョウ・ヤンは、いまや植物に呑まれそうになっている壇に向って叫んだ。

「アニキィ! オイラはもうあんま動けねぇ! こうなったらいつものあれをやろう!」

「冗談じゃねぇぞ! 今の俺を見て、あれをやれる状況だと思うのか?」

「二十秒だ! 二十秒あれば、奴らを殺すことはできないまでも、戦闘不能に追いこめるだけの準備ができるっ!」

「しかたねぇ! 可愛いチビの言うことだ、その話、乗ってみようじゃあないの!」

 走り出したチョウ・ヤンを見て、宇都宮は脇腹を気にかけつつ追いかける。

「やつら、何をする気だ……?」

 宇都宮が見ていると、チョウ・ヤンは、千賀峰の小瓶から吐き出される植物をGTFO-Tで切り付け、凍らせていた。植物は、サッカーボール大のサイコロ形に凍り付けとなって、続々と地面に転がっていく。

 宇都宮は訝った。

「あのガキが氷結の能力を持っていたとは意外だったが、いまさらあんな地道な食い止めに何の意味がある? 植物の増殖スピードにはもはや追いつけねぇ。圧倒的な植物のパワーを見て、投げやりにでもなったのか?」

 ――だがとにかく、俺はチョウ・ヤンをここで仕留めねば。

 宇都宮は風撃を放つが、チョウ・ヤンは手負いにもかかわらず、すばしこくそれを回避する。

「アニキ、準備は整った! あとはアニキに任せる!」

 チョウ・ヤンが甲高い声で叫んだ。宇都宮があたりを見渡すと、サイコロ形の氷はざっと百個に増えている。宇都宮は、あることに気がついて戦慄した。 

 ――氷の位置が、千賀峰の付近に集中している。これは……。

「咲! 小瓶を捨てて逃げろ!」

 宇都宮が無我夢中で叫んだ。

「もう遅いんじゃあないの!」

 壇が自らに迫りくる植物の陰から左手を上げた。

「植物ショーの次は爆弾ショーといこうじゃあないの!」

 突如、氷が相次いで爆発を起こしはじめた。すぐに誘爆が起こり、千賀峰と無数のジャイアント・ホグウィードは大爆発に呑み込まれた。

 

☆ 壇の爆発に巻き込まれた宇都宮と千賀峰。二人は無事なのか!?