ジャンプ型小説・ブログ集

週刊少年ジャンプみたく3人の著者が小説やブログを更新していきます。

ロストテクノロジーは誰のためにあるの 〜東都動乱篇〜  第1章 コウと志乃 Part3

 十分後、すすまみれのおじさんと、あとから来た所員たちとともに、志乃は会議室のテーブルについていた。志乃の来訪の理由を聞いたすすまみれのおじさんは、苦笑いして言った。

「水島さん、相変わらずの面倒くさがりだなぁ。僕よりはるかにいろんなことを知ってるくせに、自分で話そうとしないんだから」

「私、ここに上がりこんで迷惑でしたかねぇ?」

 志乃が遠慮がちにそう言うと、おじさんは首を振って答える。

「とんでもない。君みたいに好奇心旺盛なお嬢さんは大歓迎だよ。そうだ、紹介が遅れたね。私はここの所長をやってる白神だ。せっかくの神々しい苗字に反して、部下たちが僕のことをてんで敬おうとしないのが常々の悩みでねぇ」

「んなことなくね?」

 お茶を淹れながら口を挟んだのは、木製バットを背負った長身の青年だった。

「俺はマジ所長リスペクトしてっけど? 所長のヒゲ一本一本にいたるまでこよなくリスペクトしてっけど?」

「ウン、わかった。綾崎さん、こいつは鑢やすり谷だに朋大ともひろくんだ。去年、新都研究都市の研究所から移籍してきたばかりの新米でね」

 鑢谷はういっす、と頭だけお辞儀をして、

「マジさ、東都の研究所で働くの超憧れてたっていうか。東都のアーバンな雰囲気マジかっけぇみたいな。ウチの地元なんかさぁ――」

「ヤス、それ以上のおしゃべりは無用だ」

 鑢谷を制したのは、白神所長の傍らに座っている、いかにも真面目そうな男だった。

「饒舌はお前のウィークポイントだ。しかし、それも特訓をすることによって改善できるはずだ。つまり、お前はまだまだ修練が足りないということだ」

「わぁってるよ、りっくん。おめぇに打順を譲るよ」

「俺は朝葉陸あさばりく。呼び名は、りっくんでいい。日々の鍛錬を愛する者だ。よろしくな」

 そのとき、会議室のドアが開いて、黒髪の女性が現れた。彼女は所長に報告した。

「所長、亥城遺跡C-2地区から発掘された銅鐸の搬送、終わりました。研究室の机に置いておきましたので。というか、また実験失敗したんですね。実験室、ちゃんと片付けといてくださいね」

「分かってるよ。それにしても、今回、発掘された銅鐸の文様は珍しい例だからね。研究がはかどりそうだよ。あ、綾崎さん、この子は黒條こくじょう冷れい花かさんね。まだ十八歳だけど、研究熱心な子だよ」

 冷花は志乃に向かって「よろしく」と言って微笑んだ。

 白神所長は、最後に残った、窓際のソファで身体を伸ばしている青年に向き直った。

「彼は……」

「あ、所長。俺、そういうのいいですから。どうせ長い付き合いになるわけでもねーんですし」

 投げやりにそう言うと、青年は携帯フレキ情報シブル端末フォンのホログラム・ディスプレイに目を落とし、操作しはじめた。白神所長は困ったように苦笑いした。

「すまんねぇ、綾崎さん。彼は誰に対してもあんな感じだから許してやってね。さて、君が知りたいのは白塔について、だったかな? うーむ、僕も自分なりに長年、霊気力や考古科学の研究を積み上げてきたつもりなんだけど、白塔に関する知識に限っては、新人の君とほとんど変わりはないかもしれない」

ヤス、りっくん、そして冷花は、神妙な顔つきで白神所長の話を聴いている。

 白神所長は真剣な表情で話を続ける。

「あの塔の内部はまるで迷宮だという。凡庸な者が入れば頂上にたどり着くことはおろか、二度と帰れなくなると言われている。しかし、特別な霊気力を身に備えた者ならば、塔の内部を自由に進むことができるそうだ」

 志乃は身を乗り出して質問を重ねた。

「霊気力って結局のところ何なんですか? ネットとかで調べたことはあるんですけど、いまいちピンと来なくて」

「簡単に言えば、霊気力というのは十年前、かの『世界英雄』神宮司亮介が率いる『アルカディア』が発見した、この世の万物に備わっているエネルギーのことだ。われわれ人間にもこの霊気力は備わっていてね、霊気力の量や性質、得意な使い方には個体差がある。かつてオーラとか、エスパーといった言葉で説明されてきたもの、そういうものはこれまで可視化したり現前させたりするのが困難だった。それを可能にしたのが『アルカディア』ってわけだ」

「万物に宿る力……」

 志乃の目はきらきらと輝き出した。

「それをみなさんは考古学で研究しているんですね?」

「正確には考古科学、だね。僕たちの研究は、考古物が持つ霊気力を科学的な方法によって引き出し、解明することだ。長い年月を地中で生き永らえてきた考古物の霊気力は、底知れないパワーを秘めている。例えば、僕がいま使っているこの湯飲みは3〇〇〇年前に実際に一般人が使っていたものなんだが……」

 志乃は思わず椅子ごと後ろへ飛びのいた。白神所長が右手にぐっと力をこめたとたん、湯飲みが犬の形に変化して、テーブルの上を走り回り始めたのだ。

「こういうことができるわけだ。今のは湯飲みの材質に、水分が持つ生命力が高い霊気力を注入して変形させたんだ。もっとも、この湯飲みは大した素材じゃないからこの程度のことしかできないけどね」

 ここで、冷花が口を挟む。

「ただ、所長のように複数の異種霊気力を同時に操って、複合化・変形させてしまう能力は極めて稀なのよ。所長がもともと持っている霊気力量はゴミクズ程度だけど、その代り、所長は霊気力の性質変化の能力に特化しているの。誰しも今みたいなことができるわけじゃないのよね」

「ゴミクズって、冷花くん……。君、たまにそういうとこ出るよね。黒條の黒條たる片鱗を垣間見せるよね。……いちおう補足すると、自分の霊気力の量と、他の個体の霊気力を引き出す能力とは別物ってことだね。どちらかのみに秀でている者もいれば、両方とも優れた者もいると」

 白神所長は湯飲みを元の形に戻し始めた。一方、霊気力の力をはじめて目の当たりにした志乃の胸の鼓動は、ぐんぐん強くなっていった。

 すごい、と志乃が大声を上げたので一同はびっくりして志乃に注目した。志乃は立ち上がって叫んだ。

「すごいよ。人間やモノにこんなすごい力が眠っているなんて。なんか感激しちゃった! おじさん、じゃなくて所長! 私をここで雇ってもらえませんかっ!」

 志乃は所長に向かって思いっきり頭を下げたせいで、額をテーブルに打ちつけた。

「いだーい!」

 大声を上げて後ろにひっくり返った志乃は、背後の本棚に倒れこみ、降ってきた本の下敷きになってしまった。

 りっくんが呆れ顔でつぶやく。

「同僚が増えるのは我々としても嬉しいが、果たしてちゃんと働けるのか、彼女は?」

白神所長はハッハッハと大笑いして志乃を助けおこしながら言った。

「なーに、元気があっていいじゃないか。よーし君、採用!」

「やったー!」

 うれしそうに飛び跳ねる志乃の足もとで、またしてもビリッという不吉な音がした。

志乃がおっかなびっくり下を見ると、踏み潰された本のページが破れている。

「そうそう、忘れるところだったよ」

 にっこり微笑んで白神所長は志乃の肩に手を置いた。

「破損した本の弁償が済むまで君、無給だから」

「うげっ……うそでしょ?」

 志乃は餅をノドにつまらせたような顔でヤスやりっくん、冷花に助けを求めた。

「みなさーん。どうしましょう……」

「自業自得じゃね?」

 ヤスが愉快そうに笑う。りっくんと冷花もつられて笑った。

 志乃は最後の頼みの綱である、部屋の隅の青年のもとににじり寄った。

「ちょっとー、君からも所長さんに何とか言ってやってよー」

「……」

 反応がないので志乃がよく見ると、青年はすやすやと眠りこけていた。

「うにゃああああ! 寝るなあああ!」

 志乃は青年をひっぱたいて叩き起こすと、「というか、」とつっかかった。

「自己紹介も終わってないのに寝るとか非常識すぎ!」

「うるせ、でけぇ声出すな。ツバ飛ばすな。くせぇから」

「初対面の女の子に向かってくせぇとか失礼だなぁ! ってか、君の名前教えてよ。……長い付き合いになるかもしんないじゃん」

「しょうがねぇな」

 青年は充血した目を擦りながら、ぼそぼそと低い声で名乗った。

「虚きょ西せいコウだ。みんなコウって呼んでるから、あんたもそう呼べばいいんじゃない」

「なんだ、意外とちゃんと教えてくれるじゃん」

 志乃は笑顔で言った。

「コウくん、そしてみなさん。これからよろしくね。それから、交代制で誰かごはんおごってね。そうじゃないと私のお財布爆死しちゃうから」

「だーから自業自得だっつってんだろ!」    

 

☆ ついに主人公である虚西コウくんが登場しましたね。

  僕の書く物語は基本彼みたいな主人公が多いです。